熊野の闇、その先へ ~ 八咫烏が示した道

神話の基礎知識

神剣・布都御魂によって、熊野の危機を乗り越えた神倭伊波礼毘古命(カムヤマトイワレビコノミコト)たち。

荒ぶる神の毒気に倒れていた一行は、再び立ち上がることができました。

けれど、大和への道が開かれたわけではありません。

目の前に広がるのは、深い熊野の山々。

どこへ進めばよいのか。

どの道なら、この山を越えられるのか。

立ち上がる力を取り戻した一行には、今度は「進むべき道」が必要でした。

そのとき、高天原から新たな導きがもたらされます。

熊野の深い山々を越えた先には、これまでとは異なる土地と、そこに生きる者たちとの出会いが待っていました。

熊野に閉ざされた道

熊野の危機を脱した神倭伊波礼毘古命たちは、再び大和を目指します。

しかし、ここから先は容易に進める場所ではありませんでした。

深い森が山を覆い、いくつもの峰が行く手を遮ります。

さらに熊野の山々には、なお多くの荒ぶる神々が潜んでいました。

どこに危険があるのかもわからない。

道を誤れば、再び一行が危機に陥るかもしれません。

神倭伊波礼毘古命たちは、進むべき道を見つけられずにいました。

布都御魂によって、再び立ち上がることはできた。

けれど、剣が道まで教えてくれるわけではありません。

大和は、まだ山々の向こうです。

そのときでした。

高天原から、神倭伊波礼毘古命へ新たな言葉が届けられます。

高木大神の導き

その言葉を送ったのは、高木大神(たかぎのおおかみ)。

天地開闢のはじめに現れた高御産巣日神(たかみむすびのかみ)の、もう一つの名です。

高木大神は、神倭伊波礼毘古命へ告げます。

高木大神
高木大神

これより奥へ入ってはならない。荒ぶる神々が多くいる

そして続けました。

高木大神
高木大神

今、天より八咫烏を遣わそう。その導きに従って進みなさい

前話では、神々は布都御魂という一振りの剣を地上へ届けました。

そして今度は、進むべき道を示す存在が遣わされます。

やがて熊野の深い山の中に、一羽の烏が姿を現しました。

八咫烏。

高天原から遣わされた、神の使いです。

八咫烏、現る

八咫烏は、一行の前へ姿を現します。

何かを語るわけではありません。

ただ、神倭伊波礼毘古命たちの進む先へ飛んでいきます。

その姿を見た一行は、高木大神の言葉を思い出しました。

この烏についていけばいい。

神倭伊波礼毘古命たちは、八咫烏の後を追います。

烏は森の奥へ。
さらにその先へ。

一行が進めば、また少し先へ飛んでいきます。

八咫烏は、熊野の山々に潜む荒ぶる神々を避けるように、一行を導いていきました。

険しい道そのものが消えたわけではありません。

山を登るのも、谷を越えるのも、自分たちの足です。

それでも、進むべき方向がわかる。

それだけで、一行は前へ進むことができました。

神倭伊波礼毘古命たちは、八咫烏の姿を見失わないよう、その後を追い続けます。

そして、深い熊野の山々を越えていきました。

吉野へ

長い山道を越えると、やがて景色が変わりました。

一行がたどり着いたのは、吉野。

熊野の深い山々を抜けた神倭伊波礼毘古命たちは、ここで不思議な者たちと出会います。

最初に姿を見せたのは、川で魚を捕っていた者でした。

神倭伊波礼毘古命が、何者かと尋ねます。

すると、その者は答えました。

「私は国つ神、名は贄持之子(にえもつのこ)」

川辺に暮らすこの者は、後に阿陀の鵜飼へとつながる祖として、その名を残すことになります。

さらに山の奥へ進むと、今度は光を放つ井戸が現れました。

その中から、一人の者が姿を見せます。

よく見ると、その身体には尾がありました。

神倭伊波礼毘古命が尋ねます。

「お前は何者か」

「私は国つ神、名は井氷鹿(いひか)」

井氷鹿もまた、神倭伊波礼毘古命を拒むことなく、自らの名を明かしました。

さらにその先では、大きな岩を押し分けるようにして、もう一人の者が姿を現します。

その者にも、尾がありました。

名は、石押分之子(いわおしわくのこ)。

後に吉野の国巣へとつながる祖とされる者でした。

熊野では、荒ぶる神々が一行の行く手を阻みました。

しかし、吉野で出会った者たちは違います。

川辺から現れた者も。

光る井戸から現れた者も。

岩を押し分けて現れた者も。

神倭伊波礼毘古命と争うことなく、自らの名を明かしました。

八咫烏に導かれて越えてきた山々の先で、一行を待っていたのは、新たな敵ではありませんでした。

それは、これまで知らなかった土地と、そこに生きる者たちとの出会いだったのです。

道はさらに先へ

熊野へ入ったとき、一行には進むべき道が見えていませんでした。

布都御魂によって危機を脱しても、大和へ至る道まではわからない。

その道を示したのが、八咫烏でした。

けれど、八咫烏が神倭伊波礼毘古命たちを目的地まで運んだわけではありません。

険しい山を越えたのは、一行自身です。

八咫烏はただ、その少し先を飛び続けました。

進むべき方向を示すように。

その導きを追って熊野を越えた先には吉野があり、そこで新たな土地に生きる者たちとの出会いがありました。

しかし、大和はまだ先です。

八咫烏は再び、一行の前を飛びます。

神倭伊波礼毘古命たちも、その後を追いました。

吉野から、さらに先へ。

山々を進んだ一行は、やがて新たな土地へと足を踏み入れます。

その地の名は宇陀。

次回予告

行玄
行玄

熊野を越え、吉野を抜けた神倭伊波礼毘古命たちは、八咫烏に導かれて宇陀へと入ります。

そこにいたのは、兄宇迦斯と弟宇迦斯という二人の兄弟。

大和へ近づこうとする神倭伊波礼毘古命を前に、二人は同じ道を選びませんでした。

一方は、その歩みを阻もうとし。
もう一方は、異なる決断をします。

八咫烏が示した道の先で、今度は人と人との思惑が交わり始めます。

神話の流れをたどる

【前回物語】熊野に降りた神剣 ~ 布都御魂と高倉下
荒ぶる神の力によって倒れた神倭伊波礼毘古命たち。高倉下が届けた神剣・布都御魂によって、一行は熊野で再び立ち上がります。

【次の物語】宇陀に仕掛けられた罠 ~ 兄宇迦斯と弟宇迦斯
八咫烏に導かれて熊野と吉野を越えた一行は、宇陀へ。そこで待つ二人の兄弟は、神倭伊波礼毘古命を前に異なる道を選びます。

この物語に登場した神々

【神様図鑑】高御産巣日神とは?
高木大神の名で神倭伊波礼毘古命に言葉を届け、八咫烏を遣わして熊野の先へと導いた神。

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