豊玉毘売が去り、浜辺にはひとつの命が残されました。
その子、鸕鶿草葺不合尊 (ウガヤフキアエズノミコト)は、玉依毘売の手によって育てられていきます。
海と山、ふたつの血を受け継ぐ命は、静かに時を重ねていきました。
流れる時間

波は、変わらず寄せては返していました。
けれど、浜辺に立つ姿は、いつの間にか大きくなっています。
幼かった子は成長し、やがてひとりの男となりました。
鸕鶿草葺不合尊。
その名の通り、未完成のまま生まれた命は、時間の中で少しずつ形を得ていきます。
玉依毘売という存在
そのそばには、変わらず玉依毘売がいました。
彼女は、ただ子を育てた者ではありません。
海から託された命を、この地上に根づかせる者でした。
玉依毘売は、多くを語りません。
けれど、その在り方そのものが、流れを受け止め、次へと繋ぐ役割を担っていました。
“依るものを受けとめる者”。
その名の通り、彼女は、見えない力をこの地にとどめる存在でした。
二人のあいだにあるもの

鸕鶿草葺不合尊と玉依毘売。
二人は、長い時間を同じ場所で過ごしてきました。
育てる者と、育てられる者。
その関係は、やがて変わっていきます。
それは、ある瞬間に起きたものではありません。
言葉にするような出来事でもありません。
ただ、流れの中で、自然と形を変えていったものでした。
やがて、二人は結ばれます。
つながる命
その結びから、命が生まれました。
海の力と、山の系譜。
それぞれに流れていたものが、この命の中で、ひとつの流れとして受け継がれていきます。
やがてこの流れの先に、ひとりの男が現れます。
後に、初代天皇として知られる存在です。
それまで神々の物語として語られてきた流れは、ここから「人の歴史」へと移っていきます。
つながり続ける流れ
この物語は、ここで終わるものではありません。
海と山のあいだで生まれた流れは、さらに先へと続いていきます。
やがてそれは、国を形づくる物語へと変わり、新たな時代を迎えることになります。
次回予告

神々の時代から、人の時代へ。
そのはじまりに立つのが、神倭伊波礼毘古 (カムヤマトイワレビコ) 。
後の神武天皇となる男です。
次回、 神武天皇へと至る東征のはじまり。
ここから、日本という国の物語が動き始めます。

