天と地が交わる境目。
進むべき道がまだ定まらない、その場所に立っていた神がいました。
猿田彦命(さるたひこのみこと)。
日本神話において、物事のはじまりに現れ、進むべき道を照らす「みちひらき」の神として語り継がれる存在です。
その姿は、鼻が高く、赤く光る目をもつ異形の神。
けれど、その役割は、恐れさせることではなく、迷う者の前に立ち、最良の方向を指し示すことでした。
人生にいくつもの分かれ道があるように、神話の世界にも、天と地を分ける大きな岐路が描かれています。
そこに現れたのが、猿田彦命だったのです。
※この記事では、日本神話に登場する猿田彦命について、その由来や背景を文献や伝承をもとに解説します。
神様の基本情報

名前(正式名称・別名)
猿田彦大神(さるたひこのおおかみ)/猿田彦命(さるたひこのみこと)
主なご利益
・みちひらき・人生の転機の導き
・事業開運・商売繁盛
・就職・転職・独立成就
・交通安全・旅行安全
・方位除け・八方除け
・縁結び・良縁成就
所属する神系譜
国津神に属する神で、記紀には詳しい系譜は記されていません。
天孫降臨の際、天と地の分かれ道「天の八衢(あまのやちまた)」に立ち、天照大御神の孫・瓊瓊杵尊(ににぎのみこと)を地上へ導いた神として知られます。
このとき、天宇受売命(あめのうずめのみこと)に名を問われ、自らを「国津神・猿田彦」と名乗ったと伝えられています。
その後、天宇受売命と共に伊勢の地へ向かったとされ、後世には、二柱を夫婦神として信仰する形も生まれました。
神格と性質(象徴)
・みちひらきの神
・先導・案内・露払い
・境界を守る神
・異形ゆえの霊力
・人生の岐路に立つ存在
神様を表すシンボル
・天の八衢:天と地の分かれ道
・長い鼻・赤い顔:異界性と霊力
・八角形:全方位守護・方位信仰
・杖・先導の姿:導きの象徴
・天狗像:後世の姿の投影
登場する神話・物語
『天孫降臨』
天照大御神の孫、瓊瓊杵尊が、高天原から地上の国・葦原中国へ降ろうとしたときのことです。
天と地の分かれ道、「天の八衢」に、ひときわ異様な姿の神が立っていました。
その神は、高天原から葦原中国までを照らすほどの光を放ち、鼻は長く、背は高く、目は赤く輝いていたと伝えられます。
あまりに異形であったため、天孫一行は、この神を敵か味方か見分けられず、立ち往生しました。
天照大御神と高木神は、「敵対する神に面と向かっても、顔負けしない者」として、
天宇受売命を遣わし、その正体を問いたださせます。
『天宇受売命との対話』
天宇受売命は、猿田彦命の前に立ち、文献によっては、大胆な態度で向き合ったと記されています。
その姿に驚いた猿田彦命は、これまでの沈黙を破り、自ら名を名乗りました。
「私は国津神・猿田彦。 天孫が降臨すると聞き、 道案内をするために迎えに来たのだ」
こうして、障害と思われていた存在は、一行を導く案内役へと姿を変えます。
猿田彦命は、天孫一行を日向の高千穂まで導き、その使命を果たしました。
この出来事が、彼を「みちひらきの神」とする信仰の原点です。
『伊勢への帰還と最期』
天孫を高千穂へ送り届けた後、猿田彦命は、自らの故郷とされる伊勢の地へ帰ったと伝えられます。
五十鈴川の上流を中心に、土地を開き、人々の暮らしを導いた「地主神」としての側面も持っていました。
しかし、その最期は謎めいています。
伊勢の海で漁をしていた際、貝に手を挟まれて溺れ死んだと記されています。
そのとき、海の中から三柱の神が生まれたとも伝えられ、この出来事が、猿田彦命が海とも深く結びつく神であったことを示しているとも考えられています。
ゆかりの神社
【全国の代表的な神社】
- 猿田彦神社(三重県伊勢市)
伊勢神宮内宮の北東、いわゆる鬼門の方角に鎮座し、「みちひらき」の神として全国から参拝者が訪れる中心地です。 - 椿大神社(三重県鈴鹿市)
全国約二千社にのぼる猿田彦大神を祀る神社の総本社とされ、人生の転機や事業の始まりに訪れる人が多い神社です。 - 都波岐奈加等神社(三重県鈴鹿市)
かつて「地祇猿田彦大本宮」と認定されたこともある古社で、椿大神社と対をなす存在と考えられています。
【関東圏の神社】
- 杉並 猿田彦神社(東京都杉並区)
東京・杉並区に鎮座する猿田彦大神を祀る神社。道ひらき・方位除け・開運祈願などで信仰があり、「みちひらき」の神として地域の人々に親しまれています。参拝者が多く、御朱印を受けることもできます。
【千葉県の神社】
- 猿田神社(千葉県佐倉市)
千葉県内で猿田彦大神を祀る神社のひとつ。
地域の氏神として祀られ、方位除けや交通安全、開運の信仰が広がっています。※猿田彦大神の信仰が地域に根づく社です。 - 猿田神社(銚子市)
千葉県銚子市に鎮座する歴史ある神社で、猿田彦大神・天細女命・菊理媛命を祀ります。
「方位除け」や「交通安全」などのご神徳があり、千葉県内でも古くから信仰されている社です。
猿田彦命のエネルギーとメッセージ
・エネルギーの質
猿田彦命のエネルギーは、強く、まっすぐで、先頭に立つ力。
境界に立ち、次の世界へ進むための一歩を示す存在です。
恐れと安心が同時にある、独特の存在感は、「導き」とは、決して優しさだけではなく、
覚悟を伴うものだということを教えてくれます。
・日常へのメッセージ
迷いの中にいるとき、答えを探し続けるよりも、「進むと決めること」そのものが、道を生み出すのかもしれません。
猿田彦命は、完璧な道を示すのではなく、歩き出す人の前に立ち、その一歩を照らす神です。
人生の分かれ道に立ったとき、静かに背中を押してくれる存在。
それが、猿田彦命なのです。
関連記事・内部リンク
神話解説記事
・天孫降臨
関係の深い神
・天宇受売命
・瓊瓊杵尊
神社紹介リンク
猿田彦神社(三重県伊勢市)
椿大神社(三重県鈴鹿市)
都波岐奈加等神社(三重県鈴鹿市)
杉並 猿田彦神社(東京都杉並区)
猿田神社(銚子市)
※本記事は、日本神話や神社文化を理解するための参考情報としてまとめたものです。
特定の信仰や解釈を断定する意図はありません。

