「ひふみ、よい、むなや――」
意味を詳しく知らなくても、
どこか耳に残り、口にすると気持ちが静まる。
そのように感じる人が多いのが「ひふみ祝詞」です。
ひふみ祝詞は、日本語の一音一音に霊的な価値を見いだす
言霊(ことだま)思想を背景に持つ、日本古来の祝詞の一つとされています。
本記事では、日本の神話・言語観・信仰文化の一端として、ひふみ祝詞の成り立ちや考え方を分かりやすく解説していきます。
※本記事は、特定の信仰や解釈を断定するものではなく、日本神話や神社文化を理解するための参考情報としてまとめています。
ひふみ祝詞とは何か?
ひふみ祝詞とは、「ひふみ」から始まる47音(または最後に「ん」を加えた48音)の清音で構成された祝詞です。
ひふみ祝詞の全文
ひふみ よいむなや こともちろらね
しきる ゆゐつわぬ そをたはくめかう
おえに さりへての ますあせゑほれけ
一般的な文章のように意味を読み解く構造ではなく、音の並びや響きそのものを大切にする点が、大きな特徴とされています。
ひふみ祝詞は、次のような別名でも知られています。
- 天地祝詞(あめつちのりと)
- 天地太祝詞言(あめつちふとのりとごと)
「意味」よりも「音」が重視されてきた理由
ひふみ祝詞には、明確な文法構造や物語的な意味はありません。
それでも長く伝えられてきた理由として、
- 音そのものが心を落ち着かせる
- 声に出す行為が呼吸や意識を整える
といった、日本語特有の言語観が関係していると考えられています。
これは、「言葉には魂が宿る」とする言霊思想に基づいた捉え方です。
意味を正確に理解しなくても、
- 声に出す
- 音の流れに集中する
- 自然に呼吸が整う
こうした行為自体が、祈りや儀礼の一部と受け取られてきました。
ひふみ祝詞に見られるさまざまな解釈
ひふみ祝詞については、時代や立場によって複数の解釈が語られてきました。
ここでは代表的なものを紹介します。
宇宙の広がりを表すという解釈
「ひふみ」は数霊(かずたま)の「一・二・三」に対応し、そこから物事が広がっていく様子を象徴している、という考え方です。
近代の文献では、始まりと終わりを持たない宇宙の原理を音で表したものと解釈されることもあります。
天岩戸神話との関連
天照大御神が天岩戸に隠れた際、天児屋命が奏上した神歌がひふみ祝詞の原型であるとする伝承もあります。
史料的に確定した説ではありませんが、「閉ざされたものをひらく」という象徴性から、神話と結びつけて語られることがあります。
鎮魂や祓いの思想との関係
ひふみ祝詞は、
・心身を落ち着かせる
・気持ちを切り替える
・儀礼の前に心を整える
といった目的で用いられてきたと伝えられています。
由来と歴史的な位置づけ
ひふみ祝詞の成立時期は明確ではありません。
しかし、
- 石上神宮で伝えられる「ひふみ祓詞」
- 物部氏と十種神宝の伝承
- 各地に残る神代文字に関する説
などから、非常に古い信仰層と関係している祝詞だと考えられています。
近代では、岡本天明による『日月神示』を通して再び注目され、一般にも広く知られるようになりました。
ひふみ祝詞を唱える際の考え方
ひふみ祝詞を唱える際に、厳密な作法や決まりがあるわけではありません。
一般的には、次のような点が大切にされています。
・ゆっくり、落ち着いて唱える
一音一音を丁寧に発声し、自然な呼吸を意識します。
・意味にとらわれすぎない
理解しようと無理をせず、音の流れに集中する姿勢が大切とされます。
・日常への感謝を意識する
何かを強く願うよりも、今ある状況への感謝を意識することで、穏やかな気持ちで向き合いやすくなります。
ひふみ祝詞は「整える」ための祈り
ひふみ祝詞は、願望を叶えるための祈りというよりも、
- 気持ちを落ち着ける
- 自分自身を見つめ直す
- 日常の中で区切りをつける
そうした 「整えるための言葉」として受け取られてきた側面が強い祝詞です。
特別な準備や継続を義務にする必要はありません。
静かな時間を持ちたいとき、気持ちを切り替えたいときに、そっと口にしてみる。
そのような向き合い方でも十分だとされています。
次回予告:稲荷祝詞
次回は、全国でもっとも身近な神さまの一柱、稲荷大神に捧げる「稲荷祝詞」を取り上げます。
商売繁盛や五穀豊穣の祈りに込められた意味を、神話と信仰の視点から、やさしく解説していきます。


