世界が闇に包まれ、光が失われたとき。
その静まり返った空気を、踊りと笑いで揺り動かした女神がいました。
天宇受売命(あめのうずめのみこと)
日本神話において、芸能と舞のはじまりを告げる神であり、場の空気を変え、人と神をつなぐ“きっかけ”を生み出す存在です。
強さとしなやかさ、神聖さと人間味。
その両方を併せ持つ姿は、今もなお多くの人の心を惹きつけています。
※この記事では、日本神話に登場する天宇受売命について、その由来や背景を文献や伝承をもとに解説します。
神様の基本情報

名前(正式名称・別名)
天宇受売命(あめのうずめのみこと)/天鈿女命(あめのうずめのみこと)/天乃於須女(あめのおすめ)
別名:宮比神(みやびのかみ)、おたふく、おかめ
主なご利益
・技芸上達・芸能成就
・縁結び・良縁
・夫婦円満
・勝負運・場を切り開く力
・自己表現・人前に立つ力
所属する神系譜
天津神に属する女神で、父は祭祀を司る神 天太玉命(あめのふとだまのみこと)と伝えられています。
天孫降臨の際、道案内を務めた 猿田毘古神と出会い、のちに夫婦となったことから、朝廷祭祀に仕えた巫女集団 猿女君(さるめのきみ)の祖神とされました。
神格と性質(象徴)
・芸能・舞踊のはじまり
・場の空気を動かす力
・神と人をつなぐ媒介
・強さとしなやかさを併せ持つ女性性
・笑いと生命力による再生
神様を表すシンボル
・舞、踊り:神楽・芸能の起源
・鈿(かみかざり):神聖な装身具、女性性の象徴
・笑い、ざわめき:停滞を破る力
・岩戸前の舞台:闇から光を呼び戻す場
・猿田毘古神との対峙:道をひらく胆力
登場する神話・物語
『天岩戸隠れ』
天照大御神が天岩戸に隠れ、世界が光を失った「天岩戸隠れ」の神話。
八百万の神々が天の安河に集い、事態を打開する策を巡らす中、思金神の考えにより、一つの儀式が行われることになりました。
その中心に立ったのが、天宇受売命です。
岩戸の前で舞を奉じた彼女の姿は、文献によって描かれ方が異なります。
『古事記』では、生命力あふれる大胆な舞として描写され、
神々が思わず笑い声を上げたと伝えられます。
一方、『日本書紀』や『古語拾遺』では、より荘厳な神事として記されています。
いずれにしても共通しているのは、彼女の舞が“場の空気”を動かし、天照大御神が外の様子に心を向けるきっかけとなったことです。
この出来事は、のちに神楽の起源とされ、神と人とをつなぐ芸能の原点として語り継がれています。
『天孫降臨』
天照大御神の孫、邇邇芸命が地上へ降る「天孫降臨」の場面。
その途中、天の八衢で一行の前に現れたのが、高天原から葦原中国までを照らす巨大な神、猿田毘古神でした。
恐ろしい姿に、多くの神が名乗りをためらう中、交渉役として選ばれたのが天宇受売命です。
文献によっては、彼女が大胆な態度で猿田毘古神と対峙し、その正体と目的を問いただしたと伝えられています。
この振る舞いは、彼女の名に込められた「強さ」を象徴する場面ともいえるでしょう。
やがて猿田毘古神は、天孫を導くために現れたことを明かし、この出会いをきっかけに、二柱は夫婦となったとされます。
『海と人をつなぐ女神』
天孫降臨の後、天宇受売命は大小の魚を集め、天孫に仕えるかどうかを問いかけたと伝えられています。
多くの魚が応じる中、ナマコだけが答えなかったため、その口を切り裂いた。
これがナマコの口が裂けている由来だと語られます。
この神話は、彼女が人と自然、海の恵みをつなぐ存在でもあったことを示しています。
ゆかりの神社
【全国の代表的な神社】
- 佐瑠女神社(三重県伊勢市)
猿田彦神社の境内社。芸事や縁結びの神として篤く信仰されています。 - 椿岸神社(三重県鈴鹿市)
椿大神社の境内社で、鈿女本宮とされる神社。芸道上達や夫婦円満の祈りが捧げられています。 - 賣太神社(奈良県大和郡山市)
稗田阿礼ゆかりの地に鎮座し、猿女君の祖神としての信仰を今に伝えます。
【関東、千葉県の神社】
- 烏森神社(東京都港区新橋)
天宇受売命を主祭神の一柱として祀り、芸能・技芸上達、勝運の神として信仰を集める古社です。 - 椋神社(埼玉県秩父市)
秩父地方の総鎮守として知られ、古くから祭礼や芸能と深く結びついてきた神社です。
千葉県内において単独で祀られる例は多くありませんが、神楽や芸能にゆかりのある神社では、天宇受売命の神徳と重ねて信仰されることがあります。
天宇受売命のエネルギーとメッセージ
・エネルギーの質
天宇受売命のエネルギーは、場を和ませ、停滞した空気を静かに動かす力。
強さと遊び心が共にあり、深刻さの中にも光を見出す柔らかさを感じさせます。
・日常へのメッセージ
物事が行き詰まったとき、無理に押し開こうとしなくてもよいのかもしれません。
小さな行動や、少しの笑顔が、思いがけず場を変えることもあります。
天宇受売命は、「自分にできる役割を、引き受けてみること」
その大切さを、そっと教えてくれる神です。
関連記事・内部リンク
関係の深い神
・猿田毘古神
・天太玉命
神社紹介リンク
・佐瑠女神社(三重県伊勢市)
・椿岸神社(三重県鈴鹿市)
・賣太神社(奈良県大和郡山市)
・烏森神社(東京都港区新橋)
・椋神社(埼玉県秩父市)
※本記事は、日本神話や神社文化を理解するための参考情報としてまとめたものです。
特定の信仰や解釈を断定する意図はありません。


