大国主命(オオクニヌシミコト)は、建御雷神(タケミカヅチノカミ)との対峙の末、国を天津神にゆずる決断を下しました。
地上の支配権は高天原へ返され、いま、葦原中国(アシハラナカツクニ)は“新しい王”を迎える準備が整います。
※本記事は、特定の信仰や解釈を断定するものではなく、日本神話や神社文化を理解するための参考情報としてまとめています。
高天原の会議 ― 誰を地上へ送るべきか
国譲りが完了したという報告が高天原に届くと、天照大御神(アマテラスオオミカミ)と高御産巣日神(タカミムスヒノカミ)は静かに言葉を交わしました。

では、誰を葦原中国の王とするべきでしょうか。
これは天界の未来だけでなく、地上の未来をも決める重大な選択でした。
天照大御神は慎重に候補を挙げていきます。
最初の候補:正統の血を引く天火明命
天火明命(アメノホアカリノミコト)は、天照大御神の孫にあたる神。
霊光を身に帯び、威厳があり、王としての素質も十分でした。
天照大御神は一度、この神を地上へ遣わそうと考えました。
だが、天火明命はすでに「地上の別の系譜」へとつながる役割を持っており、天界の中心として降臨するには事情が複雑だったのです。
高御産巣日神は言いました。

天火明命は、天と地を“別の形”でつなぐ役を担う。
天孫として降ろすべきは、もっと純粋に“統治”を授かる神であろう。
第二の候補:力と威徳に優れた天忍穂耳尊
次の候補は、天照大御神の直系の子、天忍穂耳命(アメノオシホミミ)。
武にも長け、霊威にも優れ、高天原を統べるにふさわしい気質を備えていました。
天照大御神は彼に言いいます。

汝こそ、葦原中国を治めるにふさわしい。
しかし、天忍穂耳命が地上を見下ろしてひとこと。
「まだ騒がしき国に、今すぐは降りられません。」
地上にはまだ荒ぶる神々が潜み、天孫を迎えるにふさわしい完全な静寂が整っていなかった。
天照大神は迷います…
「では、誰ならば……?」
最終候補:天照の霊統を継ぐ瓊瓊杵尊
その時、天忍穂耳命が、そっと母のほうへ顔を向けて言いました。
「では、私の子を降ろしてはどうでしょう。」
その子こそ、瓊瓊杵尊(ニニギノミコト)
天照の光を受け継ぎ、素直さ、まっすぐさ、調和を好む心を持ち、荒ぶるより「治める力」を本質とした神です。
天照大御神はしばし黙し、その名を胸の内で確かめるように呟きました。
「……瓊瓊杵尊。」
天の気配がふっと変わった。
「この子ならば、よい。」
高御産巣日神も深く頷きます。

天の光をそのまま地上へと届ける者。
争いより、和をもって国を治める者。
天孫としてふさわしいのは、この神である。
こうして地上に降りる“天孫”は、瓊瓊杵尊となりました。
天孫の準備 ― 三大神の授ける導き

瓊瓊杵尊が選ばれると、すぐに“天孫降臨”の準備が始まります。
天照大御神は瓊瓊杵尊へ「八咫鏡(ヤタノカガミ)」を授けます。
天照大神の御魂を映す鏡であり、君主の心を正す象徴です。
高御産巣日神は、むすびの力を象徴する「勾玉(まがたま)」を託します。
調和と結びを司る霊力です。
建御雷神は地上を平定した武神として言います。
「葦原中国は平らけく安らかです。安心して降りなさい。」
こうして、
“統治・霊威・武” の三つが揃いました。
葦原中国、天の御子を待つ国へ
大国主命が国をゆずり、建御雷神たちが荒ぶる勢力を鎮めたことで、葦原中国には、少しずつ静けさが戻っていました。
そして…
天照大御神は天孫に向けて静かに告げます。

瓊瓊杵尊よ。
汝、葦原中国を治めよ。
そこは、汝が導くべき国である。
天の八重垣が、ゆっくりと開いていきます。
次回予告

天照大神の決断のもと、若き天孫・瓊瓊杵尊がついに雲をわけ、地上へと進み始めます。
物語は、いよいよ天孫降臨へ。


