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三柱の神がわけた世界 ~ 天・夜・海と神々の新しい時代

神話の知識

黄泉(よみ)の国から戻った伊邪那岐命(いざなぎのみこと)は、穢(けが)れを落とすために、水辺で体を清めました。
冷たい水が流れると、その澄んだ水面から光が立ちのぼり、三柱の神が姿を現します。

天照大御神(あまてらすおおみかみ)
月読命(つくよみのみこと)
建速須佐之男命(たけはやすさのおのみこと)

父である伊邪那岐命は、この三柱をとても喜び、それぞれに大切な役目を与えました。
ここから、神々の世界は新しい時代を迎えることになります。

このとき、世界はまだ形を定めたばかり。
天と夜と海が分かたれ、神々の時代が静かに動き始めたのです。

天・夜・海、それぞれの領域をわける

天照大御神

伊邪那岐命は、まず天照大御神に高天原(たかまがはら)を任せました。
天照大御神はまぶしい光で天上の世界を照らし、神々の中心に立つ存在となります。

次に月読命には、夜之食国(よるのおすくに)という夜の世界が託されました。
月の光は静かに闇を包み、昼と夜の境をつくります。

そして最後に、須佐之男命に与えられたのは海原です。
波が荒れ、風が吹き抜ける広大な海。

そこには、静けさと荒々しさの両方がありました。

こうして、天・夜・海という三つの領域がはっきりと分かれました。
それは、まるで世界に大きな柱が立ち、国のかたちが整っていくような瞬間でした。

語られぬ月、揺らぐ海、天に立つ光

月読命

三貴子の物語は、三柱が同じように描かれているわけではありません。
天照大御神と須佐之男命。

この二柱は、光と嵐のように対照的で、今後の物語の中心となっていきます。

一方、月読命は誕生のあと、ほとんど語られることがありません。
しかし、彼の沈黙は決して無意味ではありませんでした。

語られぬ月は、ただ静かに夜空に浮かび、二柱のあいだを見守っています。
その静けさは、世界を保つ“見えない柱”のような存在だったのです。

荒ぶる心と祓の力 ― 須佐之男命の変化

須佐之男命

須佐之男命は与えられた海の領域に満足できませんでした。

心の中では父を恋い、母を慕い、激しい感情が渦巻いていたのです。

やがてその心は荒れ狂い、高天原で数々の罪を犯すようになりました。
神々の世界には不穏な風が吹き始めます。

ついに須佐之男命は追放され、祓(はらえ)を受けます。
そのとき、彼の力の向きが変わっていきました。

地上に降りた須佐之男命は、八岐大蛇(やまたのおろち)を退治し、人々を救う英雄として語られるようになります。

荒ぶる力は祓によって清められ、世界を守る力へと変わったのです。

「破壊」は全ての終わりではありません。
祓を経て、その力は新しい秩序を生み出す源となるのです。

地上への視線 ― 新しい舞台へ

天・夜・海が定まり、神々の秩序はいったん落ち着きを見せます。

しかし、神々の視線は静かに地上の世界である、葦原中国(あしはらのなかつくに)へと向かい始めていました。
そこは、まだ誰の手にも属していない広大な大地です。

この地は、のちに天の神々と地上の神々が出会い、争い、そして和解する舞台となっていきます。
天孫降臨、国譲り、日本神話の大きな物語がここから始まっていくのです。

まとめ

三貴子の物語は、世界のはじまりを描く大切な章です。

天照大御神は天を照らし、月読命は静かに夜を包み、須佐之男命は荒ぶる力を再生へと変えていきます。

この三柱が天・夜・海を分けたことで、神々の世界は形を整え、新たな時代の幕が開きました。

次回予告

行玄
行玄

天を治める天照大御神と、海をゆるがす須佐之男命。
二柱のあいだには、やがて避けられない“対峙”のときが訪れます。

兄妹神の誓約(うけい)、そして天上界を揺るがす事件へ。
次回は、天照大神と須佐之男命の誓いと対立の物語をお届けします。

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