天地が開け、神々が次々と姿を現したのち、神世七代の最後に誕生したのが伊邪那岐命(いざなぎのみこと)と伊邪那美命(いざなみのみこと)でした。
二柱は天の神々から命じられ、日本列島を形づくる「国産み」を成し遂げます。
やがて国土は整い、次の使命、森羅万象の神々を生み出す「神産み」へと歩みを進めるのです。

家宅を守る六神の誕生
オノゴロ島での暮らしが落ち着くと、伊邪那岐命と伊邪那美命は、まず人が生きるための「家」を形づくる神々を生みました。
大地にしっかりと根を張る石の神、石土毘古神(いわつちびこのかみ)。
それに寄り添う石巣比売神(いわすひめのかみ)。
門を守る大戸日別神(おおとひわけのかみ)。
屋根を覆い風雨から人を守る天之吹男神(あめのふきおのかみ)。
さらに、家の中心を支える大屋毘古神(おおやびこのかみ)。
そして外から吹き込む風を防ぐ風木津別之忍男神(かざもつわけのおしおのかみ)。
こうして家の六つの柱が整えられるように神々は生まれ、古代の人々にとって家そのものが「神に守られる聖域」となっていったのです。
水の神々と自然の循環
次に二柱が生んだのは、水を司る神々でした。
大海原を支配する大綿津見神(おおわたつみのかみ)。
その海を行き来する船を港へと導く、兄妹の神 速秋津日子神(はやあきつひこのかみ) と 速秋津比売神(はやあきつひめのかみ)。
さらにそこからは、新たな流れが枝分かれするように次々と神々が誕生します。
泡となって水面に現れる沫那芸神(あわなぎのかみ)と沫那美神(あわなみのかみ)。
水面をたゆたう頬那芸神(つのなぎのかみ)と頬那美神(つのなみのかみ)。
水を分け与え、田畑や村に命を届ける天之水分神(あめのみくまりのかみ)と国之水分神(くにのみくまりのかみ)。
そして、湖や沼を守り静けさをたたえる天之久比奢母智神(あめのくひざもちのかみ)と国之久比奢母智神(くにのくひざもちのかみ)。
それはまるで、わずかな水が大河となり、海へ注がれていくように、命の循環そのものが神々の姿として描かれているようでした。
火之迦具土神 ― 運命を変えた出産
やがて伊邪那美命は、今までの神々よりさらに強大な神を産もうとしました。
その名は火之迦具土神(ひのかぐつちのかみ)
その名の通り、火を司る神です。
しかし、その誕生は大いなる悲劇をもたらします。
出産の際、伊邪那美命の体は炎に焼かれ、その身に大火傷を負ってしまったのです。
苦しむ伊邪那美命が嘔吐した物や排泄からも神々は生まれました。
鉱山を司る神、農耕や土を支える神々です。
命の炎は、大地の恵みをも生み出す一方で、母である伊邪那美命の命を奪おうとしていました。

伊邪那美命の死

我が身は、もう長くはもたぬ……
最愛の妻の命が、静かに消えようとしていました。
伊邪那岐命は彼女の傍らで泣き続け、その涙からは泣沢女神(なきさわめのかみ)が生まれます。
やがて伊邪那美命は息絶え、その遺骸は出雲(いずも)と伯耆国(ほうきのくに)の境にある比婆山に葬られました。
国土を生み、多くの神々を誕生させた女神の最期は、あまりにも痛ましく、そして突然のものでした。
次回予告
こうして、天地創造の物語は「死」という避けられぬ現実へと突き進みます。
創造と繁栄の女神は炎によって命を落とし、伊邪那岐命は深い悲嘆に沈みました。

この物語はここで終わりません。
悲しみはやがて怒りに変わり、伊邪那岐命が火之迦具土神を…
さらに伊邪那岐命は愛する妻を追って、禁断の地「黄泉の国」へと足を踏み入れることになります。
次回、「神産み(後編)」をお楽しみに。

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