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神産み(前編) ~ 自然神の誕生と伊邪那美命の死

神話の知識

天地が開け、神々が次々と姿を現したのち、神世七代の最後に誕生したのが伊邪那岐命(いざなぎのみこと)と伊邪那美命(いざなみのみこと)でした。

二柱は天の神々から命じられ、日本列島を形づくる「国産み」を成し遂げます。

やがて国土は整い、次の使命、森羅万象の神々を生み出す「神産み」へと歩みを進めるのです。

神産み

家宅を守る六神の誕生

オノゴロ島での暮らしが落ち着くと、伊邪那岐命と伊邪那美命は、まず人が生きるための「家」を形づくる神々を生みました。

大地にしっかりと根を張る石の神、石土毘古神(いわつちびこのかみ)

それに寄り添う石巣比売神(いわすひめのかみ)

門を守る大戸日別神(おおとひわけのかみ)

屋根を覆い風雨から人を守る天之吹男神(あめのふきおのかみ)

さらに、家の中心を支える大屋毘古神(おおやびこのかみ)

そして外から吹き込む風を防ぐ風木津別之忍男神(かざもつわけのおしおのかみ)

こうして家の六つの柱が整えられるように神々は生まれ、古代の人々にとって家そのものが「神に守られる聖域」となっていったのです。

水の神々と自然の循環

次に二柱が生んだのは、水を司る神々でした。

大海原を支配する大綿津見神(おおわたつみのかみ)

その海を行き来する船を港へと導く、兄妹の神 速秋津日子神(はやあきつひこのかみ)速秋津比売神(はやあきつひめのかみ)

さらにそこからは、新たな流れが枝分かれするように次々と神々が誕生します。

泡となって水面に現れる沫那芸神(あわなぎのかみ)沫那美神(あわなみのかみ)

水面をたゆたう頬那芸神(つのなぎのかみ)頬那美神(つのなみのかみ)

水を分け与え、田畑や村に命を届ける天之水分神(あめのみくまりのかみ)国之水分神(くにのみくまりのかみ)

そして、湖や沼を守り静けさをたたえる天之久比奢母智神(あめのくひざもちのかみ)国之久比奢母智神(くにのくひざもちのかみ)

それはまるで、わずかな水が大河となり、海へ注がれていくように、命の循環そのものが神々の姿として描かれているようでした。

火之迦具土神 ― 運命を変えた出産

やがて伊邪那美命は、今までの神々よりさらに強大な神を産もうとしました。

その名は火之迦具土神(ひのかぐつちのかみ)
その名の通り、火を司る神です。

しかし、その誕生は大いなる悲劇をもたらします。

出産の際、伊邪那美命の体は炎に焼かれ、その身に大火傷を負ってしまったのです。

苦しむ伊邪那美命が嘔吐した物や排泄からも神々は生まれました。

鉱山を司る神、農耕や土を支える神々です。

命の炎は、大地の恵みをも生み出す一方で、母である伊邪那美命の命を奪おうとしていました。

伊邪那美命の死

伊邪那美命の死

イザナミ
イザナミ

我が身は、もう長くはもたぬ……

最愛の妻の命が、静かに消えようとしていました。

伊邪那岐命は彼女の傍らで泣き続け、その涙からは泣沢女神(なきさわめのかみ)が生まれます。

やがて伊邪那美命は息絶え、その遺骸は出雲(いずも)と伯耆国(ほうきのくに)の境にある比婆山に葬られました。

国土を生み、多くの神々を誕生させた女神の最期は、あまりにも痛ましく、そして突然のものでした。

次回予告

こうして、天地創造の物語は「死」という避けられぬ現実へと突き進みます。

創造と繁栄の女神は炎によって命を落とし、伊邪那岐命は深い悲嘆に沈みました。

行玄
行玄

この物語はここで終わりません。

悲しみはやがて怒りに変わり、伊邪那岐命が火之迦具土神を…

さらに伊邪那岐命は愛する妻を追って、禁断の地「黄泉の国」へと足を踏み入れることになります。

次回、「神産み(後編)」をお楽しみに。

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